「力に屈したら男に生まれた意味がねえだろう……」(『ワンピース』エースの言葉)
これが男に限るかどうかは別として。今の時代、PRマンならば誰もが同じことを思うんじゃないかと。
「ジャイアントキリング」——。ある特定のプレイヤーが圧倒的な覇権を握っている市場に、後発のプレイヤーが切り込んでいき、その牙城を揺るがし、最後には逆転する。かつてキリンに、アサヒスーパードライが立ち向かったように。絶対不利と言われた都知事選で、小池百合子さんが圧倒的勝利を成し遂げたように。
物語みたいな出来事が起こりやすくなっている、今はそんな時代だと思っています。
ちょっと前までは、何か大きな社会の動きがあると、商品やサービス、ブランドがそこに乗っかり、文脈を作っていくのがPRの基本技術でした。
例えば“イケメン”という言葉の波に乗っかり、オーナーを「イケダン」と名付けたクルマがけっこう売れました。あるいは、チームマイナス6%や低炭素社会といった環境問題のムーブメントに着想を得て、ボトルの環境負荷が少ないことをアピールした「い・ろ・は・す」が市場を席巻しました。
「時代の大きな流れに合う文脈を作って、市場を取りにいく」——。
このPRの技術は、ネットニュースが生活者の情報流通に大きな役割を果たしていた時代に加速しました。ある社会的に大きな現象が起きると、Yahoo!をはじめとする大手のポータルニュースサイト(ネットにおけるマスメディア)が報道し、記事になります。すると、そのトップ記事の下には関連するニュース記事が必ず貼り付けられます。そのニュースに紐づく小ネタや、その現象をより深く理解するための補足記事もピックアップされます。そしてこれらの記事は、関連するニュースも含め、多くの人の目に触れられ、多く読まれていくことになります。
上に同じく、社会において重要な出来事が起きると、商品やサービス、ブランドもあたかもその流れに関連ある事象のように文脈を作っていく。こうすることでトップニュースにならなくても、関連ニュースに拾われることで、多くの人の目につき関心を持ってもらいやすくなる。これがニュースサイト全盛の時代に主流となったPR、「ビッグウェーブ戦略」です。(たったいま名付けました)
翻って2017年、生活者にとっての情報流通のメインパスはSNSとキュレーションメディアになりつつあります。特にSNSのシェアにおいては、社会における重要性が情報を選択する基準にはなりません。ニュースをシェアするトリガーは、一人一人の生活者の感性・共感になります。SNSのタイムラインでは常に、『このニュースをシェアするおれってどうよ?』という気持ちが顕在化されて並びます。当たり前のこと・誰もが知っていることは、どれだけ大事なニュースであってもシェアされません。それを報道するのは既存のメディアの役割だと、多くの生活者が考えているからです。今は、既存のメディアよりもSNSでつながっている生活者たちの集合拡散力のほうがはるかに大きくなっています。それゆえ、今の時代に商品やサービス、ブランドをニュースにするためには(=PRするためには)生活者の共感を生む文脈に乗せることが必要になります。
古来、日本人は「判官贔屓」とか「柔よく剛を制す」といった言葉に代表されるように、小さいものが大きなものをひっくり返す構造、そんな物語を好みます。
例えば、小さな町工場のおじいちゃんが開発した方眼ノートが、お孫さんのツイッターで拡散され、結果バカ売れしました。
あるいは「保育園落ちた日本死ね!!」という普通のお母さんの粗雑なつぶやきが日本中を巻き込んだ議論に発展しました。
SNS以前の、ポータルニュースサイトが情報の主軸だった時代にはおそらく積極的に報道されなかった無名の個人のつぶやきが、無数の人々の共感により、共有(シェア)の連鎖を生み、大きな成果を生み出した事例です。自民党という巨大な権力に単身立ち向かった小池百合子さんの都知事選も共感と共有の連鎖が巻き起こした革命だったと思います。その小池さんが早くも、生活者から権力そのものと捉えられ、反旗をひるがえされつつあるのも味わい深い現代の断面図と言えます。小池さん凋落のきっかけになったのも、都知事に比べるとはるかに小さい存在、都議会議員のおときた駿さんによる記者会見がきっかけでした。
これらの現象から考えると、SNSの時代において、社会という大きなものを動かすテコの役割を果たすのは「勇気」だと言えそうです。これは精神論ではありません。
生活者は多くの情報にさらされる中で、どんどん賢くなっています。圧倒的に強大な敵に立ち向かう姿勢や、絶望的な状況をなんとかして覆そうとする意志を見分けることができるようになっているのです。だから、勇気ある行動、発言が、生活者の共感を生み、大きなうねりのきっかけになる。そんな状況がSNSによって生まれ始めています。
PRにおいても、以前のようにただ大きな流れに乗っかるのではなく、その商品やサービス、ブランドが立ち向かうべき巨大な存在を見つけ、それに対抗するような文脈を作っていく。うまくハマれば、生活者の共感を生み、市場を大きく揺さぶることができる。これがSNS時代の共感を味方にして大逆転を起こすPR、「ジャイアントキリング戦略」です。(なんとかうまく落ち着きました)
例えば、ジャニーズ事務所を辞めてネットTVに登場するとか。
例えば、iPhoneからボタンを無くしてしまおうとか。
例えば、世界的な高級ブランドがストリートブランドとコラボしてしまうとか。
結果だけみたら、大ヒットした優れたアイデアだけど、始まりは誰かたった一人の勇気ある提案だったはずなんです。きっと反対意見も多かったことでしょう。
明日、バズりまくって、誰もが巻き込まれる社会のうねりが起きるとする。その始まりは、あなたがドキドキしながら発信した、たった一言のつぶやきかもしれない。そんな時代がもうやってきています。
今、PRと人生にいちばん必要なアイテムは、勇気である。ぼくはそんなことを「勇気」を持って断言しようと思います。
(というわけでぼくは大きな会社を辞めました。経緯は前回のコラムを読んでください!!)
PROFILE
三浦崇宏
The Breakthrough Company GO代表取締役 PR/Creative Director 博報堂・TBWA\HAKUHODOを経て2017年独立。『表現を作るのではなく、現象を創るのが仕事』が信条。 日本PR大賞・CampaignASIA Young Achiever of the Year・ カンヌライオンズクリエイティビティフェスティバル 2013 PR部門ブロンズ・2016 ヘルスケアPR部門ゴールド・2017年 プロダクトデザイン部門ブロンズ ACCクリエイティビティフェスティバル2017クリエイティブイノベーション部門グランプリ/総務大臣賞、同インタラクティブ部門ブロンズ