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山崎亮の「つながりのデザイン。」

#1 地域で出会った人々 — ふたりの医師の遺志 —

自分の仕事をコミュニティデザインと呼んでいる。地域の人たちが地域の課題を見つけ出し、それを解決するためのアイデアを生み出し、組織をつくって主体的に動き出す。それをお手伝いするのが私の仕事だ。具体的には、ワークショップと呼ばれる話し合いの場を何度も設け、参加者が自分たちで地域課題の解決に向けた話し合いや活動を展開するよう支援する。

各地でワークショップを開催しているとさまざまな人に出会う。最初は否定的だったのに、徐々に肯定的になっていき、最終的にはリーダー的存在になっていく人がいる。鬱ぎ込んでいた人が元気になっていくこともある。一方で、ワークショップの精神的な支柱となっていた人が突然亡くなってしまうこともある。

北海道の沼田町で、中学校の跡地に診療所や高齢者住宅などを計画するプロジェクトに携わったことがある。行政と専門家だけで計画を立案するのではなく、住民たちの参加によって計画内容を議論しようということになった。集まってくれた約100名の住民たちは、まず地域医療について学んだうえで計画について話し合った。4回目のワークショップに、同じく北海道の岩見沢市から参加してくれたのが医師の村上智彦さんである。村上さんはひとりの参加者として手を上げて「こんなに丁寧なワークショップの進め方はめずらしい。沼田町民が羨ましい」と発言してくれた。会場にいた他の参加者が勇気づけられたことは言うまでもない。

石川県の野々市市では、住民参加型の地域包括ケアシステムづくりに携わっている。ここでも同じくワークショップを開催し、参加者が6つのチームをつくり、市内各所で地域の健康づくりや医療のあり方などを考えるための活動について話し合った。そこに参加してくれていたのが、隣の金沢市にある金沢赤十字病院の西村元一さんだった。西村さんは、病院での仕事のほかに「元ちゃんハウス」という癌患者のための拠点をつくり、多くのボランティアスタッフとともにその運営に取り組んでいた。そんな西村さんが毎回ワークショップに顔を出してくれる。参加者のうち、特に医療関係者にとってはこれほど心強いことはなかっただろう。

2017年5月、北海道の村上さんと石川県の西村さんが相次いで亡くなった。村上さんは血液の癌である白血病で、西村さんは胃癌で、それぞれ逝去した。地域医療の分野で活躍したふたりが人生の最後の時間を使ってワークショップに参加してくれたことに敬意を表するとともに、「コミュニティデザインは地域医療に貢献できる」と教えてもらったようで身が引き締まる。村上さんは最後の著書となった『最強の地域医療』(ベストセラーズ)のまとめに「僕らのコミュニティデザイン」という文章を示してくれている。

ふたりの遺志をどう引き継ぐのかをしっかりと考えたい。

PROFILE

山崎亮

1973年生まれ、愛知県出身。コミュニティデザイナー。studio-L代表。東北芸術工科大学教授(コミュニティデザイン学科長)。慶応義塾大学特別招聘教授。 大阪府立大学大学院および東京大学大学院修了。博士(工学)。建築・ランドスケープ設計事務所を経て、2005年にstudio-Lを設立。地域の課題を地域に住む人たちが解決するためのコミュニティデザインに携わる。まちづくりのワークショップ、住民参加型の総合計画づくり、市民参加型のパークマネジメントなどに関するプロジェクトが多い。著書に『ふるさとを元気にする仕事(ちくまプリマー新書)』、『コミュニティデザインの源流(太田出版)』、『縮充する日本(PHP新書)』など。

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