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『でも、ふりかえれば甘ったるく』をふりかえれば甘ったるく? —シネボーイ 西川タイジ

#10 オムニバス

2018年3月、カメラマン・芸術家・ライター・編集・浪人生など、さまざまなバックボーンをもつ女性10名によるエッセイ・随筆集『でも、ふりかえれば甘ったるく』が発売された。20代を中心とする著者9名とイラストレーター1名が、それぞれの「幸せ」について自分らしく想いを綴る。彼女たちのこれまでとこれからに紡ぎ出される、それぞれかたちも大きさも肌触りもちがう「幸せ」。読んだらきっと、自らの日常にある小さな「幸せ」に気づいてにこやかになる、そんな1冊だ。

『でも、ふりかえれば甘ったるく』のスピンアウト企画として、著者やゲストを迎え、10回にわたってお届けしてきた本コラムも、いよいよ最終回。最後は『でも、ふりかえれば甘ったるく』の仕掛け人シネボーイ 西川タイジさん。

はじめまして、西川タイジと申します。株式会社シネボーイというCGプロダクションにて映像を生業にしつつ、出版レーベル「PAPER PAPER」を運営しています。弊社ではエフェクト、アニメーション、CMやPV、モーショングラフィックなどのCGを制作しています。何かご相談があれば是非。宣伝です。
僭越ながら今回のリレーコラム最終走者を務めさせて頂きます。よろしくお願い致します。

コラムを書く事を決めてから、どんな感じで書けばいいものだろうか悶々と考えておりましたが、著者の皆様やゲストの皆様のコラムと違い、僕の文章は恐らく物凄いスピードのスクロールで流し読みされるだろうという考えに至りましたので、気負いなく自分なりの視点から「『でも、ふりかえれば甘ったるく』をふりかえれば甘ったるく?」を書いていきたいなと思います。

 

今回『でも、ふりかえれば甘ったるく』を作り始めた時やリリースする時に、色んな人から「何故この本を作るのか」という質問をたくさん頂きました。聞かれると自分でも気になるものです。自問自答しながら、まえがきやあとがき、noteにも色々書いておりましたが、それとは別の視点から、なぜ「オムニバス」形式にしたのかというお話をできれば。

ちなみに「PAPER PAPER」からリリースした1冊目『トーク・アバウト・シネマ「特撮・CG・VFX」から語る映像表現と仕事論』(発売元:フィルムアート社)も、インタビュー・対談集という形式で、これも「オムニバス」です。映像が好きな方は是非ご一読を。宣伝です。

『トーク・アバウト・シネマ「特撮・CG・VFX」から語る映像表現と仕事論』(発売元:フィルムアート社)|http://amzn.asia/3K65ciB

● はじまりは音楽から

オムニバス形式にしたそのルーツを遡ると、僕が音楽好きだというところにはじまります。たしか聴き始めは、母の好きなCHAGE and ASKAや松任谷由実だったと思います。家のラジカセやカーステレオでよく聴かされていました。その後X JAPANやGLAY、L’Arc~en~Cielなどのビジュアル系やglobeをはじめとするTKサウンド、Mr.Children、スピッツと邦楽全盛期を通過して、Hi-STANDARDやGreen Day、GOING STEADYなどのメロコアやパンク系バンド、それにギターロック、Red Hot Chili PeppersやLimp Bizkit、山嵐やDragon Ashのミクスチャー系にハマリ、その流れでHip Hop、R&B、レゲエ、を聴いていました。東京に来てからは、僕を通り過ぎていった女性達や、たくさんの友人や先輩達など、数々の人の影響で更に色んな音楽を聴くようになりました。ポストロック、JAM系のバンド、ハウスやテクノ、エレクトロ、ダブステップとかとか。一時期ノイズにハマった事もありますが、聴き過ぎてダメになりそうだったので、今は全く聴いていません。大友良英が、『あまちゃん』の曲を担当していると聞いた時は、相当ビビりました。中学生の時に、一人で夜行バスに乗って「AIR JAM 2000」に行ったのが小さな自慢です。レスポールにマーシャルでハムバッカーな10代でした。テレキャスターの良さに気づくのは、もう少し後。ハロルド作石の漫画『BECK』は、僕のバイブルです。

 

● 言語感

洋楽ばかり聴いていた時期もありましたが、20代後半から、日本語で歌われる曲が日々のウェイトを占めてきて、それまでより「歌詞」や「言葉」にフォーカスするようになってきました。これは、本を作り始めた事の影響も、もしかしたらあるのかもしれません。面白い言語感の人達に、自分には無い部分を感じて憧れを抱いています。もちろん文章を書く人達にも。
ちなみに最近は小袋成彬のアルバム『分離派の夏』ばかりずっと聴いているのですが、本当に素晴らしい作品。聴けば聴くほど好きになっていますし、毎回新しい発見があります。まるで、ずっと小説を繰り返し読んでいるような気分。天才やでほんまに。SSWの土井玄臣も素敵ですね。バンドでいうと、D.A.N.やMONO NO AWARE、ミツメの言語感が好きです。センスが溢れ過ぎていて眩しい。ラッパーでは、BRON-KやSanga Skye、S.L.A.C.K.のリリックが特に好きです。どれもこれも、是非聴いてみてほしい。ちなみに、このコラムはTAMTAMの『Esp feat. GOODMOODGOKU』をずっとリピートしながら書きました。

 

● ノスタルジー

昨今、サブスクリプションのサービスだったり、各種通販、ダウンロードサイトで試聴できたり、YouTubeでMVをすぐに観れるようになりましたが、僕が地元にいた時は音楽雑誌のレビューを読んで音を想像していました。『バンドやろうぜ』や『GIGS』とかですね。MTVやスカパーに入っている友人は“英雄”でしたし、先輩が貸してくれるCDやMD、カセット、LIVE映像のVHSがかっこいい音楽を知るキッカケでした。何より、田舎なのでそもそも入荷すらない事が当たり前。今は無き渋谷センター街の巨大なHMVや、下北沢のHIGH LINE RECORDS、もちろんタワーレコードやディスクユニオンもですが、上京して始めて行った時の高揚感を今でも覚えています。本当に震えました。知らない世界が圧倒的に広がっていることに、感動すら覚えました。この時代の話は、まさしく僕の“ふりかえれば甘ったるい”良き思い出です。ノスタルジー。

 

● オムニバス

当時は、本当にお金も限られていた青二才でしたので、新しい音楽やアーティストを知りたい時によく買っていたのが、バンド系のオムニバスやコンピレーション、Hip HopではDJ達が紡ぐMixCDでした。手当たり次第に聴いて、気になったアーティストの動向を追ったり、音源が出ていれば買ったり、LIVEに行ったりしていました。曲を聴いてすぐLIVEに行けるようになったのも、上京して嬉しかった事の一つです。日々膨大な音楽を扱っているCDショップのスタッフや、音楽ライター、スタイルのある“誰か”がセレクトし、何かの理念の元にアーティストが集っている事は、若い自分にとって、かっこよさや面白さの保証のようなものがあるように感じ、何よりも信頼性がありました。そしてお得感がでかい。

そんな流れから、僕がいつか本を作る時はオムニバスで作ろうとぼんやりと考えていた訳です。オムニバスのいいところって、色んな要素が一つにパッケージされているから、どれかがその瞬間はあまりしっくりこなくても、あとから自分の状況にハマる部分が必ずあったりするんです。物質として存在する“本”にする意味としても、長期的に読み返した時に、新しい“発見”のある内容にしたかったという狙いもあります。

僕は僕自身をしょぼい人間だと自負しているのですが、そんな僕でも、僕がかっこいい・素敵だと思うものを人にオススメする事はできるんじゃないか、それ位はやってもいいんじゃないかと思っていて。そういう人もいたっていいじゃん、というテンションですね。皆がスーパースターだったら、世の中破綻するでしょう。いつか僕自身に面白さの保証がつくように、更に貪欲に色んなものをDIGしつつ日々精進していければなと思います。
もうひとつ。戸田誠二の漫画『生きるススメ』に『原動力』という章があるのですが、その中で漫画家がアシスタントに「感動をもらったら、お返ししましょう」と言う下りがあります。この話がずっと胸に残っていて、人に素敵なものをオススメする事が、僕がもらってきた感動のお返しになるんじゃないかなって。そう思っています。何かを作っている人は是非読んでみて下さい。気に入ると思いますよ。

 

● 嬉しい悲鳴

オムニバスを作る時に大変だったのが、参加して頂く著者や表紙のイラストレーター、デザイナーの方を選ばなければならないという事でした。これは決してネガティブな意味ではなく、煌めく才能が溢れすぎていて、選ぶのに一苦労という嬉しい悲鳴の意味です。SNSを使う事が当たり前になり、作品を発表する場も増え、何かを作る人の数は膨大で、まるで銀河から新しい星を見つける天体観測午前2時。出会いは本当に偶然です。もちろんオファーの段階で断られた事もありますし、声をかけたかった人達、タイミングが合えば書いてもらいたかった人達がたくさんいます。今回は一緒に本を作る事はできませんでしたが、いつか何かを一緒に作れたらなと。まだ僕の知らない、見つけられていない才能に、これから出会える事がとても楽しみです。
本については、これからも一冊一冊、心をこめて作っていきたいと思いますが、それ以外にも、やりたい事や作りたいものがたくさんあります。ゆっくりですが、一つ一つ。是非楽しみに待っていて頂ければ幸いです。

 

● 誇り

人の生活に必要なのは、衣食住。僕に必要なのは、映画、本、漫画、音楽、珈琲、酒、煙草。どれもこれも、本当は無くても生きていける。

無くてもいいものを作る時、誰かのあったらいいなと思うものを作りたい。

たぶん世界を変えることはできないけれど、僕の作るものが、あなたの世界の1つになればと願いをこめて。

僕の作った本が、あなたの大好きな本の横に並んでいる。

素晴らしい人達の言葉を残せた。

これは紛れもなく僕の誇りだ。

その誇りを胸に生きていける。

幸せだよ。

● あとがき


リレーコラム、いかがでしたでしょうか? 著者の皆様、ゲストの皆様のコラムとても素敵でしたよね。

『でも、ふりかえれば甘ったるく』を読んで頂いた方には、更に深く楽しんで頂ける機会になったのではないでしょうか。いや、そうなっているはず。だって、すごく面白かったから。未読の方にも、著者の皆様やゲストの皆様のコラム単体で楽しめる連載になってくれていれば幸いです。是非、書籍の方もチェックしてみてくださいね。

改めて、このような機会を与えて頂いたBAUSの吉田さん、上野さん。ありがとうございました。また何かで是非ご一緒致しましょう。

著者の皆様、ゲストの皆様。お忙しい中でのコラム執筆、本当にありがとうございました。皆様の今後の更なるご活躍を誰よりも楽しみにしております。
今回、とても素敵な皆様と、偶然にもタイミングが合い、素晴らしい本を作れた事、リレーコラムができた事、本当に感謝の言葉しかありません。さほど実績の無い出版レーベルからいきなり連絡がきて、さぞ怪しんだかと思います。著者の皆様の返事が「YES」だった瞬間、これも僕の人生の甘ったるいエピソードに是非加えさせて下さい。

そして何よりも読んでくれた皆様に、最大限の感謝と愛をこめて。

次は『でも、ふりかえれば甘ったるく』の男版、『エンドロール』でお会いしましょう。


※各アーティスト名の敬称略にさせて頂きました。リスペクトをこめて。

 

 

■フェアのお知らせ
京都岡崎 蔦屋書店様で”girl meets girl”というフェアが展開中です。
(展開期間:2018年6月18日(月) – 8月20日(月))

今回、『でも、ふりかえれば甘ったるく』と著者の一人でもあるエヒラ ナナエさんの日記集『SOMEDAY』をピックアップして頂きました。

お近くの方、ご旅行に行かれる際は、是非お立ち寄りの上お楽しみ頂ければ幸いです。

詳細はこちらから→京都岡崎 蔦屋書店「girl meets girl」フェア

PROFILE

『でも、ふりかえれば甘ったるく』

カメラマン、芸術家、ライター、編集、浪人生等様々なバックボーンを持つ女性10名のみで制作したオムニバス集。悩みながら、もがきながら、噛み締めながら「今」を生きる。女性9人が自分らしく想いを綴る、それぞれの「幸せ」とは。彼女たちの「これまで」と「これから」をまとめたエッセイ・随筆集。
全国の書店、各種通販サイトにて発売中。

【目次(著者 / タイトル)】
01. 伊藤 紺 / ファミレスのボタン長押しするように甘く
02. 生湯葉 シホ / 永遠には続かない
03. こいぬま めぐみ / 検索結果は見つかりませんでした
04. いつか 床子 / 幸せでない話
05. mao nakazawa / 私の庭
06. 菅原 沙妃 / ここにいていいよ
07. 西平 麻依 / 大人になるのは、きっとそれから
08. 渡邉 ひろ子 / 夜の散歩から
09. エヒラ ナナエ / 愛すべき孤独に
10. ery / カバーデザイン

【Credit】
発行元:株式会社シネボーイ / PAPER PAPER
発売元:日販アイ・ピー・エス株式会社

Produce:西川 タイジ(CINEBOY inc. / PAPER PAPER)
Book Design:近成 カズキ(CINEBOY inc. / PAPER PAPER)

PROFILE

西川 タイジ (CINEBOY inc./PAPER PAPER)

1986年山形県生まれ。映画館、レンタルビデオショップ、DVD制作会社などの勤務を経て株式会社シネボーイに入社。
2017年に出版レーベル『PAPER PAPER』を立ち上げ、第一弾の書籍として、特技監督、プロデューサー、ディレクターなどのインタビュー・対談集『トーク・アバウト・シネマ 「特撮・CG・VFX」から語る映像表現と仕事論』(発売元:フィルムアート社)をリリース。
新刊「エンドロール」準備中です。

トップ挿絵・エヒラナナエ 文・西川タイジ 編集・上野なつみ

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